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聖なるペルーの旅


2001.9.27〜10.10


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10月 2日
 昨日は、私の荷物はまだ届かなかった!? そのバッグには、二人分のシュラフから着替えまで、キャンプに必要なものが、ほとんど入っていた。エハンが聖アントニオのお祈りをしてくれた。今まで探しているものが見つからなかったとき、このお祈りをすると必ず出てきたそうだ。後は、全て聖アントニオにお任せしようと言ってくれた。このとき、すでに私の中にはある予感があった・・・。

 昨夜は、食事が終わってしばらくすると、すぐに眠りについた。12時過ぎ頃に目が覚めて、トイレに外に出てからは、頭がすっきりと冴えてしまって、眠れなくなってしまった。そのうち、雨が激しく降り出した。私の頭はさらにクリアになり、結局そのまま朝を迎えることになった。

 6時半頃になると、ポーターが各テントにお茶を持ってきてくれる。温かいお茶を飲みながら、シュラフの片付けと荷造りをする。私たちは、ポーター達からシュラフを貸してもらっていた。その後、朝食を済ませて8時前には出発。トレール中のスナックも用意してくれていた。水は、沸かしたものを用意してくれるのだが、私たちはその水に日本から持ってきた還元効果のあるお塩(M-80蘇生塩)をパラパラ。この塩は、今回あらゆるところで役に立ってくれた。ペルーに行く前に出会ったのも、意味があったみたい。

 昨夜の雨で、空気もさらに澄んでいる。昨日歩いたルートは、急な登りが続いて、きついなあと思っていると、なだらかな道になってくれたので、何とか持ち超えていたものの、今日は高さにして1200mを一気に登ることになる。1200mと言っても、キャンプ地はすでに標高3000m。そこから始まって、頂上の4200mまで登る。それが、本当にハンパじゃなかったことが、後でわかることになる。 登り始めて1時間半ほど経った頃、川のほとりで休憩した。柾至は、犬に持ってきた朝のパンをあげたりして、遊んでいた。冷たい川で水を冷やしたりして、みんなが揃うのを待っていた。

先にいるのが、ポーターさん まだ、ここまでは写真を撮る余裕あり !?

 昨日は、自分たちのペースで構わないと言われていたが、初日ということもあって、みんなほとんど同じペースで一緒に歩いていた。だが、今日はそういうわけにも行かなくなった。M.M さんは、スタート時点から体調が悪そうだった。私は昨日もそうだったが、登りになると呼吸が苦しくなっていた。小さい頃から、風邪を引くと、よく気管支をやられていたし、心臓もそれほど強いほうではなかった。普段は何ともなくなったが、こんなとき体質的に弱い部分が出てくるようだ。

 さらに2時間ぐらい歩くと、木の生い茂ったジャングル地帯に入った。いつの間にか、道は石畳になり、階段が続く。ここは、”Cloud Forest”と呼ばれていて、美しい自然の姿がそこにあった。思わずターザンを連想させるような大きいツタのある木もたくさんあって、風は冷たくて気持ち良い♪ 鳥の鳴き声が、ジャングルの中に響いて、私たちを迎えてくれているようだった。
 私と柾至は、途中何度も立ち止まって、川に手をつけたり、木に触れたりしながら、この道をゆっくりと楽しみながら進んだ。湿気があるので、その分登りでも呼吸が楽だった。それが、ジャングルを過ぎた頃、再び乾いた道になった。この頃から、身体がどんどんきつくなってくる。

 空気の薄さと、昨日の睡眠不足が影響しているのか、足は重くなり、息が苦しい。数メートル歩いては、立ち止まる。「おかあさん、休憩しよう」と柾至。さすがの彼もきつそうだった。でも長くは休めない。そうすると、立ち上がろうとするときに、ますます身体が重くなる。
 後ろから、M.Mさんの姿が見えた。アドリエールに荷物を持ってもらい、肩をささえてもらいながら、杖につかまるように歩いている。エハンは、その後ろを歩いていたが、どうやら彼もお腹の辺りにきて苦しんでいる様子。それぞれに、自分の肉体と戦っていた。
 雨が降り出し、レインスーツを着る。「Are You Hungry?」とアドリエール。もうお昼は過ぎているらしいが、空腹を感じている余裕もない。延々と続く道を、ただひたすら歩いている。もう少し、あの岩まで・・・と一歩ずつ歩く。ようやく、ランチのテントが見えてきた。雨に濡れて、寒そうな柾至。あともう少しで、ゆっくり休める。

 「Miyukiさ〜ん、まさしく〜ん、頑張って〜」 先に着いている人たちが、手を振りながら迎えてくれている。私は、そこで身体の力がふっと抜けたようになり、雨で濡れた顔に涙が一緒に流れてきた。ヨレヨレしながら、ようやくダイニングテントの椅子に腰をおろした。
 柾至のジャケットは薄かったので、下のシャツにまで雨が通ってしまっていた。寒さと空腹でガタガタ震えて、私も背中をさすってあげながら、この時は可哀想で見ていられなかった。M.Yさんが、柾至に予備のジャケットを貸してくれた。しばらくして、温かいお茶を飲んで、大きなサンドイッチをガツガツと食べ始め、お替りをしている姿をみてほっとした。
 エハンも何も言わず、すぐに横になっていた。峠までは、もう一息だという。先頭グループが出発したので、私たちも少し休んで出発。道に出るまでの崖を登るだけで、すでにゼーゼー。「ハンパじゃないでしょう。」とエハン。まったくだ〜! だからと言って、止めたいとか帰りたいとは少しも思わなかった。ゴールを目指して、前に向かって進みたい。どんなに時間がかかっても構わないから・・・。

 そうして、ようやく4200mの頂上が姿を見せた。はやる気持ちで足を速めようとするが、身体はやっぱり重かった(笑)。「無理して急ぐ必要はないから、今のこの瞬間を味わって・・・」とエハンに言われ、気がついた。そうだ、こんな瞬間はきっと二度と味わえない。だから、急がなくてもいい。ここでもう一度、立ち止まって周りの景色を見渡した。そして、後ろを振り返ると、自分たちが歩いてきた道が見えた。そうして、大きく深呼吸をして頂上に向かって、ゆっくりと一歩ずつ登った。

 K.Mさんが、そんな私たちをカメラを構えて待っていた。「そこで、一番辛そうな顔して!」 そう言われても、うれしくて笑顔しか出ない。(左側がその時の写真) >K.Mさん、早々に送ってくれてありがとうございます♪
 今でもこの写真を見ると、この時の感動が蘇り、自然と笑みがこぼれてくる。顔も身体もボロボロでヨレヨレの姿だが、そこには何の覆いもなく、あるがままの自分の姿があるような気がした。
 全く、私たちの人生と同じだ。私たちが歩む道は、果てしなく続き、どんなに遠い道と思っても、どんなに苦しい道のようでも、あきらめないで一歩ずつ前に向かって進んで行けば、いつかは必ず目的地に達する。そして、そこには大きな喜びと祝福が待っている。早くゴールに着くことだけが、目的ではない。大切なのは、そこに辿り着くまでの過程・・・そのプロセス。


 「まさしくん、いい顔してるねえ」と、言ってくれたM.Yさん。
そこで、待っていてくれた人たちと、一緒に儀式をした。アドリエールが、みんなに一枚ずつコカの葉を渡し、それぞれの名前を唱えて息を吹きかけた葉を土の中に埋めた。

 そうすると、陽が射し始め、もしやと思って振り返ると、私たちが登ってきた山にがかかった。たった今、自分たちが登ってきた道に・・・・。(右横の写真) 

 私は思わず、手を合わせていた。エハンはその虹に向かって、十字架を握り締め、感謝の祈りを唱えているようだった。虹は彼にとっても意味のあるものだったと、後で話していた。そのため感動もひとしおだったと思う。ここまで来るのは、文字通り長い長い道のりだったが、次は、もう下らないといけない。そう、また新たな目的に向かって進む。

 ここからは、今日のキャンプ地まで約700m(距離じゃなくて、高さ!)を一気に下る。段差の激しい石段が続く。雨で濡れているので、ここで急ぐと足を痛めるから注意するようにとのアドバイス。身体を少し斜めに向けて、一段ずつ下りていく。足への負担はあるものの、私にとって下りは心臓や呼吸が苦しくないので、その分は楽だ。正面に見えているV字形の谷間の先に、今日のキャンプがある。(下の写真) 
 そう思って、見ていると大きな雲の塊が、ゆっくりと流れるように現れた。次第に形を成してきて、私と柾至はほとんど同時に「なんか、みたい!」 そう、その雲は私たちには龍に見えたのだ。写真を見てわかるように、私たちはずっと雲の上を歩いている。柾至は、「先に行くね〜」と、私たち大人を振り切って、どんどん駆け下り、あっと言う間に姿が見えなくなった。あの峠を越えたばかりなのに、子供の足ってやっぱり強いんだなあ。 
 5時過ぎごろ、ようやく標高3500mのキャンプ地に着いた。霧の中、随分前に到着していた柾至の姿が見えた。大きなキャンプ地だったので、私たちのテントがどこにあるのか教えてあげようと、みんなを入り口で待っていたらしい。それも寒いのにTシャツ1枚で・・・。一体どこにそんなパワーがあるのかと感心してしまう。
 一方、私はテントに入って一度腰を降ろすと、その後は足がガクガクしてきて、手を洗いに行くまでの距離さえも長く感じた。ここには、川の水を引いた備え付けの水洗トイレと手洗い場もある。感激〜。これで、今日はまともに顔も洗える。長〜い一日が、ようやく終わった。これでみんな無事に第一関門突破! お疲れさま〜。