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聖なるペルーの旅

            
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2001.9.27〜10.10


10月 6日
 今朝は早めに起きて、I さん夫婦と出発までの間に市場に行ってきた。この市場には、野菜・果物・パンなどの食料品から、靴に下着にバッグに日用品・・・と生活に必要なありとあらゆるものが、揃っている。私はここで、ペルーの塩を買ってみた。最近では、日本でもインカ塩として売られているようだ。I さんたちと、ペルーラーメンを試食してみた。肉がベースなので、私は麺だけ口にしてみた。見た目ほどは、脂っぽくはなかった。安いので、ペルーの人たちには人気があるようだ。

 今日から3日間はアマゾン。クスコから飛行機に乗って、アンデス山脈を越えて、Puerto Maldonadoの空港へ。降りた途端に、モワ〜ッとした空気で、一気に暑くなった。私は飛行機の中で、気圧が変わったときに耳をやられた。片方が塞がってしまったようだ。心地は良くないが、しばらくすると自然に戻るだろうと、気にしないことにした。バスで、船着場に向かう。町並みは、ベトナムやタイのような雰囲気で、何となくアジアっぽい感じだ。ここで、このあとジャングルを案内してくれるガイドを紹介してくれた。モニカという女性。(またしてもM!)スリムで髪が長くて、笑顔が素敵な人。楽しくなりそうだ♪ 

 カヌーでアマゾン河を上流する。カヌーというから、みんなで漕ぎながら行くのかと思っていたら、ちゃんとエンジン付きだった(笑)。それでも4時間以上はかかるらしく、手で漕いでたら大変なことだと笑われた(^^; じっとしていると蒸し暑いのだが、カヌーに乗ると、風が気持ち良くて快適だった。柾至は、河に手をつけて遊んでいた。昨日、買った皮のハットを被っていると、みんなから「いいね、いいね〜」と言われ、リトルインディアンジョーンズと呼ばれて、照れくさそうに笑っていた。

 ランチボックスを食べた後は、時々ウトウトしていた。途中で動物たちが姿を見せると、モニカが説明してくれた。マカオという鳥は、カラフルでおもしろい鳴き声をしているし、世界一大きいねずみハピバのファミリーも見えた。(下の写真左)鳥がすぐ近くにいて、仲良くしているようだ。蝶は、カメの目の周りの掃除をし、そのミネラルを食べて成長するそうだ。動物たちは、そうしてお互いに、ごく自然に与え受け取りながら、共生して生きている。私たちは、彼ら動物たちの生き方から学ぶことが、たくさんありそうだ。

 ある村で、シャーマンをピックアップ。夜の儀式でお世話になるシャーマンだ。そのシャーマンは、村の長でもあり、エハンは彼と何度も一緒に儀式をしているそうだ。このときは、まだその儀式がどんなものか、全くわかっていなかった・・・。ただ、その途中で、何と天河の六角岩の河原で見たあの紋様と、全く同じものが目に飛び込んできたのだ。アマゾン河は、茶色く濁っている。天の川の水は、とても澄んでいるために、あれだけはっきりと形として見れたのだと思っていた。だから、一瞬自分の目を疑った。でも間違いなく、同じものだった。そこだけが、太陽の光りが差し込んでいたために、映って見えたのだ。急いでカメラを出そうとしたが、間に合わなかった。そのあとも、注意深く見ていたが、もう見ることは出来なかった。今にして思うと、それも偶然ではなく、この後に起こることを暗示していたのかもしれなかった。
 



 5時間足らずで、タンボパタジャングルロッジに到着。オーナーは、若くてきれいな女性なので少し驚いた。
 チェックインして、それぞれのロッジに入った。ここは、電磁波が全くない。つまり、電気の必要なものは一切なく、この暑さの中、クーラーはもちろん扇風機も何もない。日中は、軽く35度は超えるようだ。これが日本だったら、どうやってこの3日間を過ごそうかと思うが、この大自然の中だと何とかなりそうな気がした。部屋にはトイレもシャワーもあるし、もちろんベッドも。それだけでも、また有難いし、それで十分だと思える。ベッドの上には、蚊帳が張ってあった。元気な虫もたくさんいそうだ(^^)。
 早速、シャワーを浴びた。冷たい水しか出ない。そうか、良く考えてみたら、ここでお湯が出るわけがなかった。あまりに冷たいので、ずっと浴びることが出来ず、タオルに水をぬらして、それで洗い流した。だから、髪を洗い流すときは気合が必要なのだ。でも、そのおかげで汗がひいて、サッパリする。ロッジにはハンモックがあって、柾至もすっかり気に入っていた。じっとしていても、汗が流れてくるが、時折優しい風がふわ〜っと吹いてくると、何とも言えず心地よくて、生き返ったようになる。その自然の風もまた有難くて、思わず「ありがとう」と言いたくなる。これも、普段便利な器具に囲まれて生活していると、感じられないことだと思った。日が暮れると、辺りはもう真っ暗だ。部屋とトイレに、それぞれ1本ずつのろうそくがあるだけ。だから、キャンプ同様に夜は何もすることがない。でも、ここでは儀式が待っている。

 始まる前に集まって、エハンから儀式について説明があった。ペルーに来てから、何かアマゾンの植物のエキス?を飲むことだけは、聞いていた。そのために、ランチ以降は何も食べないことになっていた。インカトレールが肉体の浄化なら、この儀式は魂の浄化であり、この聖なる植物(アヤワスカと呼ばれている)はDNAにまで作用するという。私は、その話を聞いて驚いた。ここで、私がペルーに来たもう一つの目的がわかったのだ。

 今年の3月に初めて山に登ったあと、高熱が出て細胞が原子転換したことがわかった。それで、これからは細胞から光りに進化させて行くことが、テーマとして来た。そのあとで、6月に蘇生水(ハーモニーウオーター)に出会い、急速に細胞が進化して行くのを感じた。そして、ペルーに行く前に、細胞をDNAから変化させることについて、あるところで話をしていたばかりだったのだ。私もそこまで進化させられればいいのになと思ったが、生まれ持った体質から変えて行くことは、そうそう出来るものではないと思っていた。
 それが、その植物がDNAに作用すると言うのだ。前に、ガン細胞を持っていた人が、ここで3日間飲んで、日本に帰るとガンが消えていたこともあったそうだ。他にもいろいろ奇跡的なことが起こっているらしかった。ただ、それも人それぞれで、何が起こるかはわからない。マーサは、初めて飲んだときに、とても素晴らしいビジョンを見せて頂いたらしい。それは、大きな祝福を受けたことでもあるが、彼女のように1日目からビジョンを見せられることは滅多にないと言っていた。それも、かなりまずいみたいで、大抵は吐くそうだ。(えっ!?) 何も知らなかった私は、儀式というと、高次と繋がったり、光りを受け取ることをするのかな位に思っていた。それがどうやら、大変なこともあるようだ。それでも、私に必要なことは良くわかった。だったら、きっと大丈夫。何も心配することはないはず・・・。

 そのあとは、また部屋に戻り、それぞれに瞑想するなり、準備をすることになった。8時集合で、枕を持って柾至とロッジに向かった。部屋には、一人ずつのマットが敷いてあった。部屋の中には、ろうそくで灯されたランプだけなので、少し薄暗い。それぞれに、ビニール袋とトイレットペーパーが配られた。私たちのグループ以外にも、参加している人が何人かいた。途中で何かあったり、トイレなどで外に出たくなったら、サポートしてくれる人もいるようだ。初めてなので、少しドキドキはしているものの、全てを委ねようと思っていた。

 エハンからスタートした。正座してシャーマンに一礼した後、ボトルに入った液体をコップに注いだものを、一気に飲み干している。続いてマーサ、M.Mさん、モニカ、ロッジのゲスト(?)の男性。彼もどうやら初めてだったようで、飲んだ後「ウエッ」と苦そうにして、「ウ〜」とため息をつきながら持っていた水を飲んでいた。私たちは、途中でどんなに水を飲みたくなっても、最後の最後まで出来るだけ我慢するようにと言われていた。彼は、そのことを知らなかったのだろう。それが、後で大変なことになってしまったのだ・・・。
 
 私は、最後から3番目。ゴクゴクと一気に飲む。飲んだ瞬間、あまりの味に吐きそうになるのを、ぐっと抑えた。彼が水を飲みたくなるのもわかる。飲んだ後も、いつまでも口の中に残っている。初めて口にする味で、何て表現したら良いのか・・・甘すぎて苦いのか。それが胸の中まできて、ムカムカしてくるほど。しばらくして、ゆっくりと横になった。私の後だった柾至は、飲んだ後もしばらく正座をしたままだった。

 数分後、激しく嘔吐するのが聞こえた。さっきの彼のようだ。その嘔吐の仕方が半端ではなく、何度も何度も繰り返して止まらない。でも、私たちには、もうどうすることも出来ない。静まり返った部屋に、激しい音が響き渡っている。私もそれで気分が悪くなりそうになるのを、胸を抑えて我慢していた。そうしているうちに、何時の間にか、私は深いアヤワスカの世界に引きずり込まれていった。

 頭の中で音が聞こえている。この不思議なリズムは・・・? 目の前には、幾何学的な模様が表れ、それがどんどん拡がっていった。全身の神経がマヒしてしまったようになり、全く違う世界ー(異次元の世界だろうか)に入り込んでしまったような感覚。でも、しっかりビジョンは見えている。その模様をしばらく見ていると、「これは蝶だ!」と思った。すると、その蝶が私を迎えにきて、上へと連れて行く。私は宙に浮いたようになり、どこまでもどこまでも高く高く上っていく。
 その遠い先には、連なった山が見えた。そこで、今度は龍がやってきた。私は、咄嗟に「千と千尋の・・・」を思い出し、背中に乗ってつかまった。(この映画を見たとき、千尋が気持ちよさそうに白龍に乗っているのを見て、私も乗ってみたいと思っていた。)そのとき表れた龍は、緑がかった青に見えた。私は、一種の恍惚状態のようになっていた。

 でも、その一方で、時々現実の音も聞こえてくる。激しい嘔吐の声が耳に入ると、一瞬止まってしまっていた。遠くで、歌も聞こえてきた。女性の歌声で、そのメロディは子守唄のように優しく包んでくれているようだった。それと同時に、不思議なメロディの歌も流れ、シャカシャカという音が聞こえてきた。その音がする度に、またその世界に戻り、さらに深みに入って行った。

 そんなことを何度か繰り返していた。一体どれくらい時間が経ったのか、音が止まった後、エハンとマーサが「グラシャス」と言ったのが聞こえた。終わったのかもしれない・・・。でも、身体はまだ麻痺しているみたいで、よく動かない。すると、意識が戻った途端に、急に吐き気をもよおした。それからは、まるで天国から地獄に落とされたようだった。何度も何度も吐き続ける。出てくるのは、食べ物ではない。アヤワスカの入った液体だけ。そして、吐く度に身体の力が抜けていき、脱力感で動けない。身体は、寒くて震えている。頭はグルグル回り、フラフラしている。ビニール袋を抱えたまま、動くことも出来ない。みんなは一体どうしているのだろう。周りは真っ暗で、良く見えない。私はこの世界に、一人取り残されたような気持ちになり、あまりのキツさに涙まで流れてきた。

 そうだ、柾至は!? 柾至の声がしない。すぐ横にいるのに、身体が思うように動かなくて確かめることも出来ない。あの子は、一体今どんな状態でいるの? きっと、彼も寒くて震えているはず。声も出せずに、一人で苦しんでいるのかもしれない。私は、このとき初めて彼を連れて来たことを後悔した。あの年で、まだ子供なのに、こんな思いをしているとしたら、私は一体何てことをさせているのだろう・・・。いくら魂が古いとはいえ、身体はまだ子供なのだ。まさか、こんなことになるなんて、どうしよう・・・。これを、あと二日受けるなんて。まだ、インカトレールのほうがいい。

 ・・・いろいろな思いが頭をよぎった。肉体を超越する寸前は、もう冷静に考えることが出来なかった。でも、彼だけは何とかしてあげなくては・・。誰か動いているのが見えた。そこで、「ヘルプ ヘルプ・・」と声にならない声で、必死で手を差し伸ばした。その人は、近づいて懐中電灯で私の顔を照らした。良かった、気づいてくれた。私は、隣にいる彼のほうを指差して「ブランケット、ブランケット、プリーズ・・」 そう言うのが、やっとだった。どうか、彼をお願い・・そう言いたかったが、もうしゃべる力もなかった。

 そこで、エハンが来てくれた。私の頭を撫で、横に座り、手を握って何か唱えてくれていた。私は、高熱でうなされているような状態で、座ったままハアーハアーと喘いでいた。動こうとすると、すぐにまた吐きたくなるので、横にもなれなかった。時々、意識がなくなる。それでも、ふと気がつくと、じっと座って力強く手を握ってくれているのがわかり、それが私の支えとなっていた。そのときの私には、彼の存在がとても大きく見え、彼を通してスピリット達の存在を感じていた。そうだ、一人ではないのだ。いつかは終わるはず・・そう信じようとした。そして、長い夜が過ぎて行こうとした。